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図 年間50日以上の長期欠席児童生徒数の全児童生徒数に占める割合の推移
(文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)・保坂(2000)から作成)
ひきこもり現象はいつうまれたか
「ひきこもり」は70年代に現れ80年代から90年代にかけて激増したと言われている。斎藤環は次のように述べている。
私自身も、医師になりたてだった1980年代中期の時点で、この種の事例をごくありふれたものとして診療にかかわっていた経験があります。(斎藤 2002: 34)
また、最初期からひきこもり問題に関わり続けているNPO法人・青年自立援助センターの代表である工藤定次によると、「ひきこもり」と呼ばれるようなケースに初めて関わったのは1978年であるという(斎藤 2003: 52) 。
この傍証となるのは不登校者の推移である。ただ不登校統計を使う際には注意が必要である。なぜならば、不登校統計には様々な問題点があるからである。都道府県によって不登校率にはとて大きな差異がある。最も高い値は、小学校で52.7%(青森県)、中学校では89.9%(青森県)である。他方で、最も低い値は22.0%(長崎県)、中学校で48.6%(愛媛県)である(門ほか 1998: 27)。
県によって30~40%あまりの差異があるのである。教育レベルに地域差があるかもしれないが、そのことを差し引いてもこの数字をそのまま受け取るわけにはいかない。実態として、各都道府県で30~40%ほどの開きがあるというよりも、各地の教育委員会の方針や不登校児童のカウントの方法に違いがあると解釈した方が妥当であろう。例えば、「不登校」であっても「病欠」と記録した方が親にとっても学校にとっても差し障りがないことから、実態としては「不登校」であるにも関わらず「病欠」となっている生徒は多数存在している。
保坂(2000)によると、多くの不登校児童が病欠としてカウントされているのである。長期欠席者に占める不登校率の低い都道府県では、実態しては「不登校」であるにもかかわらず、「病欠」などでカウントして、見かけ上は不登校の児童が非常に少なく見えているのだ。
このような事情を考慮すると、不登校統計を使っても実態をうまく掴むことができないことがわかる。恣意的に統計が取られる「不登校」よりも、実数に限りなく近い長期欠席者の統計推移を見る方が賢明であると考えられる。また、不登校の統計は1966年から開始されているので、66年以前の動きも把握できず、長期のトレンドを見ることも出来ない。このような理由から、ここでは不登校ではなく、長期欠席者のデータをここで示す。
図 年間50日以上の長期欠席児童生徒数の全児童生徒数に占める割合の推移
(文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)・保坂(2000)から作成)
このグラフは中央が谷になっているという全体的な特徴を持つ。中央の谷は70年代半ばあたりである。70年代以前には、長期欠席の生徒は珍しくなかった。戦後しばらくは生活困難という理由が考えられるし、そもそも学校とは必ずしも「行かなければならないもの」ではなかったのだろう。その後、70年代には日本国民がこぞって学校に登校する時期になる。しかし、その70年代半ばから「不登校」が徐々にあらわれ、80年代から90年代にかけて激増をすることがこのグラフから読み取れる。
「ひきこもり」の7~8割は「不登校」の延長で起きている。つまり、70年代半ばあたりから不登校者の一部が「ひきこもり」に移行して、「ひきこもり」という現象を生み出してきたと考えられるのである。「ひきこもり」の7~8割は「不登校」の経験がある。つまり、70年代半ばあたりから不登校者の一部が「ひきこもり」に移行して、「ひきこもり」という現象を生み出してきたと考えられるのである。
このことの証左となるのは、40代の「ひきこもり」がここ数年の間に一般化してきたという事実である。
図のグラフの谷にあたる1975年に中学1年生であった人を考えてみよう。その人は1962年に生まれたことになる。彼らがいわば「ひきこもり第一世代」である。彼らは70年代に「不登校」になり、「ひきこもり」へと移行して、そのままひきこもり続けて、現在になって、中年の「ひきこもり」として発見されていると考えられる。
「ひきこもり第一世代」は70年代に「不登校」から「ひきこもり」に移行した人たちであり、上の図に見られるように、後年に比較してそれほど多くはない。80年代から「不登校」は激増していく。この図によれば、40代の「ひきこもり」の下には、激増期の80年代に「ひきこもり」になった30代の「ひきこもり」が40代の数倍の規模で存在していることを示している。
臨床医や支援者の証言、長期欠席者の年次グラフ、40代の「ひきこもり」の一般化などから、「ひきこもり」は70年代から増加してきたということが言える。「ひきこもり」はここ数十年の間に大規模に発生した極めて現代的な現象なのである。
参考文献
保坂亨,2000,『学校を欠席する子どもたち―長期欠席・不登校から学校教育を考える』東京大学出版会.(amazon)
門眞一郎・滝川一廣・高岡健, 1998,『不登校を解く―三人の精神科医からの提案』ミネルヴァ書房.(amazon)
文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)(webpage)
斎藤環,2002,『「ひきこもり」救出マニュアル』 PHP研究所.(amazon)
斎藤環,2003,『ひきこもり文化論』紀伊国屋書店.(amazon)
保坂亨,2000,『学校を欠席する子どもたち―長期欠席・不登校から学校教育を考える』東京大学出版会.(amazon)
門眞一郎・滝川一廣・高岡健, 1998,『不登校を解く―三人の精神科医からの提案』ミネルヴァ書房.(amazon)
文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)(webpage)
斎藤環,2002,『「ひきこもり」救出マニュアル』 PHP研究所.(amazon)
斎藤環,2003,『ひきこもり文化論』紀伊国屋書店.(amazon)
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